鉱物に関する用語の英和対訳など

鉱物について,この分野特有の単語など,英和辞典に載っていない語句を挙げた.

前提

結晶軸は人差し指-中指-親指の順にa-b-cを対応させた右手系で,c軸を縦に取る.
以下の英語の語句は,すべてある一つの文献中で使用されたものである.そのため,他の文献での用法と異なっているかもしれない.
筆者はこの分野の専門家(研究者)ではないため,不正確な記述が含まれている可能性がおおいにある.

本編

薄片

thin section; 岩石薄片(岩石を薄く削って作られるもの.grain mountではない)
grain mount; 樹脂包埋薄片
樹脂包埋薄片:「鉱物粒子を樹脂で固めて(=包埋処理)作られる薄片」の意.この用語は用例はあるが広く認知されたものであるかは不明.「グレインマウント(鉱物粒子を~)」「樹脂包埋薄片(鉱物粒子を~)」と記すのがよいかもしれない.なお,「包理」ではないため,注意.

断面

basal cross section / basal section; 横断面,a軸とb軸を含む断面
直訳は「基底断面」.
cross section; 断面,横断面]から類推すると,「基本の」断面を指していると思われる.
そして, "longitudinal section" が縦方向に切った断面,特にc軸を通るものであると考えると, "basal cross section" はそれと対になる,横断面,特に基本となるb軸とc軸を含む断面であろう.
ただし,"longitudinal section" が必ずしもc軸を含む面を指さないと思われることから,必ずしもa軸とb軸を含む面を指すとは限らないかもしれない.

longitudinal section; 縦断面
c軸を含むもののみを指すかは不明.

参照した文献では
cross section; 断面
basal cross section / basal section; 横断面
longitudinal section; 縦断面
になっていそう.

双晶

双晶の種類

simple twin; 単純双晶
multiple twin / repeated twin; 繰り返し双晶
polysynthetic twin; 集片双晶
lamellar twin; 薄片双晶
これらの英語・日本語のそれぞれの単語は文献によって定義が異なる場合がある(と思う).
これらの用語を記す場合は,例えば「単純双晶 (simple twin)」などと記すとよいかもしれない.
Crystal twinning - Wikipediaより引用.

If several twin crystal parts are aligned by the same twin law they are referred to as multiple or repeated twins. If these multiple twins are aligned in parallel they are called polysynthetic twins. When the multiple twins are not parallel they are cyclic twins. Albite, calcite, and pyrite often show polysynthetic twinning.

双晶の境界

diffuse boundaries (on composition planes) ; 双晶面が曖昧,漸移的に変化する
直訳すると「diffuse boundary; 拡散する境界」である.
明確な線状ではなく,ぼやけたようなものを指していると思われる.

光学的性質

伸長

length slow; 伸長が正
length fast; 伸長が負
「伸長が正・負」はそれぞれ「伸長方向がZ'・X'」の意.
「Z'=遅い光,X'=速い光」.
よって,この訳語になる.
なお,鉱物の外形だけでなく劈開の方向についても,「劈開の伸長が正」「劈開線の伸長が正」などというようである(そのような文献があるが,一般的に認められた言い方であるかは不明.).

消光

symmetrical extinction; 対称消光
双晶の各結晶の消光角が双晶面に対して逆方向で等しいことであると思われる.

波動消光・波状消光

undulatory extinction; 波動消光
wavy extinction; 波状消光 ?
これらの英語の語句と日本語の訳語は一般にはこのように1対1で対応しないかもしれない.

参照した文献ではこれらの用語がどちらも使われていたため,異なるものを指している可能性が考えられるが,それぞれが指す現象の違いがあるか,ある場合はそれがいかなるものかは釈然としない.
以下に,黒田・諏訪 1983*1 p.67 より,石英の消光についての文を引用する.

しばしば,1つの結晶のなかで,消光位が少しずつ違った部分があり,ステージを回転させると,消光した部分が波状に移り変わる波動消光 (undulatory extinction) とよばれる現象を示すことがある。

なぜそう考えたかは面倒なので書く時間がないため割愛すると,同心円状,平行線状,不規則といった見え方の違いや回転させたときの様子で使い分けられているかもしれない.
なお,明らかにこれらの語の違いを意識して書かれたと思われる文献は見つからなかったものの,これらを同等に扱っている文献はいくつかあったため,鉱物を記述する際にこれらの違いを特段意識する必要はないかもしれない.

その他

optic sign; 光学的正負
一軸的正号・符号などの正・負の符号

pleochroic halo; 多色暈

その他 岩石の成因など

incipient alteration; 初生変質,初生変質作用

granular mass; 粒状体(?)

参考にさせていただいたサイト

偏光顕微鏡の用語(英和)
広島大学大学院総合科学研究科 名誉教授 福岡正人氏のサイト「地球資源論研究室(Earth Resources Research)」の一ページ.
このページで紹介されている文献などにあたった.

*1:田吉益, 諏訪兼位 共著. 偏光顕微鏡と岩石鉱物. 第2版, 共立出版, 1983.5. 4-320-04578-5, 10.11501/9671767. https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001614995